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最高裁判所第二小法廷 平成3年(行ツ)201号 判決 1992年2月28日

東京都文京区本郷三丁目一八番一五号

原告

アトム株式会社

右代表者代表取締役

松原一雄

右訴訟代理人弁護士

三宅正雄

右訴訟代理人弁理士

土屋勝

右訴訟復代理人弁理士

大滝均

東京都渋谷区恵比寿西一丁目五番一〇号

東一工業株式会社訴訟承継人被告

トーイツ株式会社

右代表者代表取締役

池田二三男

右訴訟代理人弁護士

小泉淑子

梅野晴一郎

右訴訟代理人弁理士

米屋武志

右訴訟復代理人弁護士

高橋謙

主文

1  特許庁が、同庁昭和六二年審判第一七〇八三号事件について、昭和六三年八月四日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた判決

一  原告

主文同旨。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

被告は、考案の名称を「光線治療器等を備えた保育器用架台」とする登録第一六五二〇四七号の実用新案(昭和五二年二月四日出願(実願昭五二-一二二四五号)、昭和六〇年三月八日出願公告(実公昭六〇-七〇五六号)、昭和六一年九月一一日設定登録、平成四年二月四日限り存続期間終了。以下「本件考案」という。)の実用新案権を有する者であつたところ、原告は、被告を被請求人として、昭和六二年九月二二日、右実用新案登録を無効とすることについて審判を請求した。

特許庁は、右請求を同庁昭和六二年審判第一七〇八三号事件として審理の上、昭和六三年八月四日「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決をし、その謄本は同年八月二七日原告に送達された。

二  本件考案の要旨

保育器の載置台に、上端に水平アームを突設した一対の支柱を確立し、該水平アームが保育器上面より十分高い位置において平行且つ水平となるよう形成すると共に上面に新生児モニター等の載置部を形成した光線治療器を上記水平アーム間に配設し、該光線治療器をレールを介して保育器の真上方位置から後部外方に移動できるようにしたことを特徴とする光線治療器等を備えた保育器用架台。(本件考案につき、本判決別紙本件考案図面第2図ないし第4図参照)

三  本件審決の理由の要点

1  本件実用新案登録の出願及び登録の経緯並びに本件考案の要旨は一、二項のとおりである。

2  これに対して、審判請求人(原告、以下「原告」という。)の主張は、審判事件甲第三号証ないし同甲第八号証、同甲第八号証の一、同甲第九号証ないし同甲第一五号証を提出し、本件考案は、それらの証拠によつて、実用新案法第三条第一項第三号又は同条第二項の規定に該当するというにある。

一方、被請求人(被告、以下「被告」という。)は、本件実用新案は実用新案法第三条第一項第三号及び第二項の規定に違反するものではない旨主張し、審判事件乙第一号証ないし同乙第三号証を提出すると共に、審判事件甲第三号証ないし同甲第五号証(本訴甲第五号証ないし甲第七号証)、審判事件甲第八号証(本訴甲第四号証)及び審判事件甲第八号証の一は、本出願前に頒布された刊行物とは認められない旨主張している。

(以下、書証は特に断らない限り本訴の書証番号で特定する。)

3  甲第四号証ないし甲第七号証、審判事件甲第八号証の一の頒布日について

(一) これらはいずれも、オハイオ・メデイカル・プロダクツのパンフレツトに関するものであり、審判事件甲第八号証の一は日本の総代理店アムコ社が作成したと推定される甲第四号証の日本語翻訳パンフレツトである。

原告は、次の<1>、<2>のように主張している。

<1> 各パンフレツトの最終頁の最下欄の数字は発行年を示すものであつて、例えば甲第六号証及び甲第七号証には、「Form No.8120(Rev.’73)6-73-30」「Form No.324(Rev.’74)2-74-30」とそれぞれ記載されており、前者は'73年改訂なので、「6-73-30」の73は発行年であり、又後者は'74年改訂で74となつており一致しているようにハイフンで結合している数字の第二番目が発行年である(甲第八号証、甲第九号証は同樣な表記法であることを補足する証拠である)と解され、甲第四号証は「Form No.519 6-78-30」と記載されているので、'73年発行であり、いずれも本件出願前公知であることは明白である(以下、「理由の」という。)。

<2> 甲第一〇号証ないし甲第一二号証は外国において頒布された刊行物であつて(それぞれ一九七二年八月から一九七三年一〇月に発行)、公知性が明らかであり、これら各号証には甲第四号証に記載されているのと実質的に同一の新生児用集中治療監視装置が開示されているので、この事実は甲第四号証が一九七三年頃に発行されたことを裏付けている(以下、「理由<2>」という。)。

(二) 前記理由<1>について検討する。

原告は、本件考案は前記甲各号証より、実用新案法第三条第一項第三号又は同条第二項の規定に該当することを主張しようとしているのであるから、前記甲各号証が、本件出願前に頒布された刊行物であることを証明しなければならないが、前記表示方法の説明からでは、頒布形態、対象等が不明であり、カタログに表記された数字が直ちに頒布年を証明するものとは認められない。

理由<2>に関しては、成立していることが明らかな甲第一〇号証ないし甲第一二号証に甲第四号証の一部と同一の写真等があるからといつて、その事実か頒布形態、時期等を証明するものではないので、そのことから直ちに甲第四号証全体がその当時頒布されていたということはできない。

したがつて、現在提出されている証拠だけからは前記甲各号証が本件出願前に頒布されていたものとは認められない(なお、昭和五五年審判第一四七一四号(拒絶査定不服)の請求において、本件無効審判と同一の請求人(原告)は、審判事件甲第八号証の一と同一の証拠の頒布時期を証明するために、証明願を提出しているが、頒布時期、形態、対象等の詳細が不明であり、その証拠だけからでは、本件出願前の頒布を立証できたものとは認められない)。

(三) しかしながら、問題となつている前記甲各号証に記載されている事実の一部が他の刊行日に争いのない甲各号証に記載されていることから、仮にこれら甲各号証が本件出願前に頒布された刊行物であることが証明されたものとして、原告の、実用新案法第三条第一項第三号該当及び同条第二項該当の主張について検討する。

4  実用新案法第三条第一項第三号該当の主張について

原告の主張は、本件考案は、甲第四号証、甲第一〇号証又は甲第一一号証にそれぞれ記載されているということにある。

(一) 甲第四号証には、新生児用集中、治療監視装置が開示されており、同監視装置のテーブルに、一対の支柱が確立され、その左右上端に二個の水平のオーバーヘッド・モジユール(以下、「ハウジング」という。)が突設させており、そのハウジングには、ヒーターが備えられており、その熱により治療中の新生児の体温を維持できること、及び左右のハウジング間に水平に光線治療器を配設できること及び後部外方に移動できることが記載されている。

甲第一〇号証は、甲第四号証の三頁の写真右側に示されているフリースタンデイング型ヒーターに関するものであり、光線治療器はハウジング間にローラー上を容易に滑動して正しい位置にセツトされること及び処置が終了したら、速やかに滑動させて取り外すことができる旨記載されている。また、甲第一一号証は実質的に甲第一〇号証と同一である。

(二) そこで、まず本件考案と甲第四号証の装置を比較すると、水平アームを突設した一対の支柱において、該水平アームが平行かつ水平となるように形成されており、アーム間に光線治療器を設置し、該治療器が後方に移動できるようになつている点では同一であるが、<1>本件考案は、支柱が保育器の載置台に一体となつて確立されているのに対して、甲第四号証では、手術台又は処置テーブルと一体となつているか(スタンダード型)又は支柱が独立しているか(フリースタンデイング型)であること、<2>本件考案では、光線治療器の上面に新生児モニター等の載置部を形成しているのに対し、甲第四号証の装置は、そのような構成が示されていない点で異なつている。

(三) 即ち、相違点のに関して、甲第四号証の装置は、保育器として使用できることは示唆されているが(開放型保育器)、その場合は、あくまでも、支柱に突設された水平なハウジングに付設されたヒーターがあつて、新生児の体温維持等の保育器の機能が奏するものと認められるので、支柱がテーブルに確立されたスタンダード型の装置であつたとしても、支柱及びヒーターハウジングを一体として含んだものを保育器と解すべきであつて、本件考案とは支柱及び水平アーム及び光線治療器の取り付け位置が異なるものである。まして、フリースタンデイング型は、移動可能な加熱ヒーターというべきであつて、既存の小児ベツド(bassinets)又は処置テーブル(Procedure table)のところに移動可能であると示されているように、保育器と一体として構成されていない点で全く異なつている。

相違点<2>に関して、甲第四号証の光線治療器は、上部が平であるが、その上面は写真から判断すると、人間の頭上であつて、モニター等を載置することは不可能であり、また、同号証一〇頁には、光線治療器を設置する台が別途部品として紹介されていることから考えると、光線治療器の上面にモニター等の載置台を設ける技術思想は何ら示唆されていない。

(四) したがつて、以上のように、前記相違点は、本質的なものであつて、甲第四号証には、本件考案が記載されているとは認められない。また、前記したように、甲第一〇号証、甲第一一号証の装置は、フリースタンデイングヒーターであつて、本件考案と構成を全く異にしている。

よつて、仮に、前記各号証が本件出願前に頒布されていたとしても、これらの証拠により、本件考案は、実用新案法第三条第一項第三号の規定により、実用新案登録を受けることができないという原告の主張は採用しない。

5  実用新案法第三条第二項該当の主張について

原告の主張は、詳しくは、本件考案は、

<1> 甲第五号証ないし甲第七号証の内の少なくとも一つと、甲第四号証と、場合によつては甲第一三号証(審判事件甲第六号証)、甲第一四号証(審判事件甲第七号証)の内の少なくとも一つとに基づいて、きわめて容易に考案をすることができた、

<2> 甲第五号証ないし甲第七号証の内の少なくとも一つと、甲第一〇号証又は甲第一一号証と、場合によつては甲第一三号証及び甲第一四号証の内の少なくとも一つとに基づいて、きわめて容易に考案をすることができた、

<3> 甲第一〇号証(又は甲第一一号証)と甲第一二号証とに基づいてきわめて容易に考案をすることができた、ものであるということにある。

(一) 原告の右<1>の主張について検討する。

(1) 甲第五号証ないし甲第七号証は、実質的に同一内容であつて、これらには、保育器の載置台に、上端に水平アームが突設した一対の支柱を確立し、該水平アームは、保育器上面より十分高位置において平行かつ水平となるように形成され、引込み可能な(Retractable)棚になつていて、保育器の真上位置から後部外方に移動できるようになつており、その棚の上面には、モニター等が載置され、下方には螢光ランプが具備された保育器用架台が記載されている。

(2) 本件考案と前記甲号各証の架台とを比較すると、前者では、光線治療器が水平アーム間に配設され、その上面は、モニターの載置台をもかねているのに対して、後者においては、光線治療器の替りに螢光ランプが配設されている点を除いて、同一である。

(3) この相違点に関して、原告は、甲第一三号証、甲第一四号証には、新生児黄疸の光療法において、市販の螢光灯が光源に用い得ることが示唆されていること及び甲第四号証には、光線治療器が移動可能な水平アーム間に配置し使用することが開示されているので、棚に備えられている螢光灯の照射強度を光線治療器といえる程度に大きくするか、又は、甲第四号証架台の場合と同様の光線治療器ユニツトに置き代えることは、当業者がその必要に応じて、任意に採用し得た、きわめて些細な設計変更にすぎないと主張する。

(4) しかしながら、螢光ランプと光線治療器は、共に光線を出すものであつて、光源が一部共用し得ることがあつたとしても、その目的が根本的に相違するものであることは、被告の提出した審判事件乙第二号証、同乙第三号証からも明らかであり、光線治療器は、一般の照明器具とは異なつた構造、構成、作用をなすものであること、甲第六号証には、光線治療器を用いる場合は、棚に付設された螢光灯とは別に保育器のフード上に設置するようになつており、架台の存否には関係がない旨記載されており、光線治療器と螢光灯とは、全く別のものを考えられていること並びに光線治療器を棚に配設しようとする技術思想はないこと及び甲第四号証では、前記したように、モニターは、別途ヒーター架台に取り付ける棚の上に置くようになつており、光線治療器の上面に載置するような技術思想はないことから、この相違点は、原告の主張するような、きわめて些細な設計変更にすぎないものとは認められず、一方、本件考案は、明細書記載の効果を奏することは明らかであるので、前記甲号各証から当業者がきわめて容易になしえたものとする原告の主張は採用できない。

(二) 主張<2>に関して、甲第一〇号証、甲第一一号証は、甲第四号証の一部と同じであるので、前記した理由により、原告の主張は、採用できない。

(三) 前記主張<3>に関し、甲第一二号証は、甲第一〇号証、甲第一一号証と同様に、甲第四号証と同一であるので、前記したように、甲第四号証と他の証拠を総合勘案したとしても、本件考案がきわめて容易になし得たものでない以上、甲第四号証又はそれと実質的に同一の証拠を組み併せたとしても、本件考案がきわめて容易になし得るものとは認められない。

(四) 以上、前記甲号各証が仮に全て本件出願前に頒布されていたとしても、本件考案はこれら証拠に基づき実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないという原告の主張は、採用しない。

残りの甲第一五号証、審判事件甲第一五号証は、前記の甲号証の特定の事項を裏付けるものである。

6  したがつて、原告の主張する理由及び証拠方法によつては、本件実用新案の登録を無効とすることはできない。

四  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、甲第四号証ないし甲第七号証(審判事件甲第八号証、同甲第三号証ないし同甲第五号証)が本件考案の登録出願前に頒布されたものとは認められないと認定を誤り(認定判断の誤り第1点)、甲第四号証には本件考案が記載されていないと認定を誤り(認定判断の誤り第2点)、甲第一二号証(審判事件甲第一二号証)、甲第一五号証(審判事件甲第九号証)にも本件考案が記載されていないと認定を誤り(認定判断の誤り第3点)、甲第五号証ないし甲第七号証の内の少なくとも一つと、甲第四号証と、場合によつては甲第一三号証(審判事件甲第六号証)、甲第一四号証(審判事件甲第七号証)の内の少なくとも一つとに基づいて、きわめて容易に考案をすることができたものではないと判断を誤り(認定判断の誤り第4点)、甲第五号証ないし甲第七号証の内の少なくとも一つと、甲第一〇号証若しくは甲第一一号証又は甲第一二号証と、場合によつては甲第一三号証、甲第一四号証の内の少なくとも一つとに基づいて、きわめて容易に考案をすることができたものではないと判断を誤つた(認定判断の誤り第5点)結果、原告主張の理由及び証拠方法によつては、本件考案の登録を無効とすることはできないと誤つた判断をした違法があるから、取り消されなくてはならない。

1  認定判断の誤り第1点

本件審決は、甲第四号証ないし甲第七号証(審判事件甲第八号証、同甲第三号証ないし同甲第五号証)が、現在提出されている証拠だけからは、本件出願前に頒布されていたものとは認められない旨認定している(前記三3(一)、(二))が、右認定は誤りである。

(一) 甲第五号証、甲第六号証、甲第七号証の各最終頁の最下欄には、甲第五号証に「Form No.1863-1X(Rev.’71)12-71-3」と、甲第六号証に「Form No.8120(Rev.’73)6-73-30」と、甲第七号証に「Form No.324(Rev.’74)2-74-30」と各記載されている。そして、これらの「Rev.’71」、「Rev.’73」及び「Rev.’74」は、甲第五号証、甲第六号証、甲第七号証の発行年度が、それぞれ一九七一年、一九七三年、一九七四年であることを示している。

(二) また、甲第四号証の最終頁の最下欄には、「Form No.519 6-73-30」と記載されている。そして、この「73」は、同号証が一九七三年に、発行されたか、あるいは少なくとも、その印刷がされたことを示している。

この一九七三年は、本件登録実用新案の出願日である一九七七年(昭和五二年)二月四日よりも、約四年前であるから、甲第四号証のパンフレツトが約四年間も、どこにも配られずに眠つていたというようなことは、それがもともと配布を目的としたパンフレツトであることからみて、通常はありえないこととみるのが相当である。換言すれば、甲第四号証のパンフレツトも、書籍や雑誌の場合と同様に、特に反証のない限り、発行日に実際に頒布されたと事実上推定されるべきであり、また、その印刷日または印刷行為がされた日から少なくとも三年間経過するまでには、実際に頒布されたと事実上推定されるべきである。

(三) また、甲第一七号証及び甲第一九号証からも甲第四号証ないし甲第七号証が、それぞれ、少なくとも、本件登録実用新案の出願日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であることは、明白であるということができる。

(四) よつて、この点に関する本件審決の前記認定は、明らかに誤つている。

2  認定判断の誤り第2点

本件審決は、本件考案と甲第四号証記載の装置との間には次の<1>、<2>のような相違点があり、甲第四号証には本件考案が記載されているとは認められないと認定している(前記三4)。

<1> 本件考案は、支柱が保育器の載置台に一体となつて確立されているのに対し、甲第四号証のスタンダード型の装置では、手術台または処置テーブルと一体となつている点

<2> 本件考案では、光線治療器の上面に新生児モニター等の載置部を形成しているのに対し、甲第四号証の装置では、そのような構成が示されていない点

しかし、本件審決の右認定は誤りである。

(一) 相違点<1>について

(1) 甲第四号証のスタンダード型の装置(以下、「甲第四号証保育器」という。)において、支柱が確立されているのは、テーブル(新生児収容ベツド)が載置されて取り付けられている台(甲第四号証の三頁の写真の左側の装置における最下部のやや縦長の四角な箱状のもの)であるから、甲第四号証保育器においては、保育器のベツド載置台に支柱が確立されていることは、明白である。

なお、甲第四号証保育器は、開放型輻射式保育器であつて、テーブル(新生児収容ベツド)は、ベツド載置台に載つているだけでなく、しつかりとこれに取り付け固定されている。

この点は、本件実用新案公報の図面に示す本件考案の実施例に係る閉鎖型対流式保育器の場合も、同様である。

なお、閉鎖型対流式保育器において、載置台は、保育器本体の高さ保持と移動とに必要であるとともに、幼児の保育に必要な各種の物品の収納にも必要で、必須不可欠のものである。ゆえに、保育器本体のみを保育器と言う場合があるかもしれないが、甲第五号証ないし甲第七号証、甲第一一号証、甲第一五号証及び乙第三号証にそれぞれ示されているように、通常は、保育器本体と載置台とを含めた全体を保育器といい、保育器の販売時には、通常、この保育器全体が販売の対象となる。

したがつて、保育器は、開放型輻射式保育器および閉鎖型対流式保育器のいずれであるかを問わず、載置台と、この載置台上に取り付けられた保育器本体とからなつているのが一般的である。ゆえに、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載の「保育器の載置台」(架台本体が上記載置台を意味している場合には、「保育器用架台」も同じ)は、一般的には、保育器の一部分である。

(2) なお、乙第九号証(日本工業規格T七三〇三-一九六八)の一頁の適用範囲の欄には、「この規格は、未熟児または新生児の保育および小児内科ならびに小児外科に使う、ふ(孵)卵器形保育器(以下、保育器という。)について規定する。」と記載され、ここで、「ふ卵器形保育器」とは、閉鎖型保育器を実質的に指しているものと認められる。

しかしながら、乙第九号証の右の記載は、同号証が閉鎖型保育器について規定するものであると述べているに過きず、保育器というものは閉鎖型であると述べてはいない。

一方、株式会社南山堂発行「医学大辞典(第一七版)」の一八〇三頁の「保育器」の項には、「現在の保育器は閉鎖式と輻射式の二種に大別される。」と記載されている。また、本件審決も、甲第四号証の装置、すなわち甲第四号証保育器が開放型保育器であることを容認している(前記三4(三)参照)。

更に、本件明細書には、本件考案における保育器を閉鎖型保育器に限定することについては、何ら言及されていない。

したがつて、本件考案における保育器は、閉鎖型のものだけでなく、開放型のものも当然包含している。

(3) こう見てくると、甲第四号証保育器における保育器用架台は、本件審決が挙げた前記相違点<1>において、本件考案と実質的に相違するところはない。

(二) 相違点<2>について

(1) 本件考案においては、光線治療器の上面に新生児モニターなどの載置部を形成していることになつているが、これは、実質的には、光線治療器の上面に新生児モニターなどを載置するスベースがあることを意味していると解される。また、この場合、載置するものは、新生児モニターに限定されておらず、その他の物(新生児用の各種の関連器具だけでなく、人形でも、縫いぐるみでもよいと解される。)であつてもよい。

(2) 一方、甲第四号証保育器においては、光線治療螢光灯ユニツトは、偏平に構成されている。そして、この甲第四号証保育器が、新生児モニターなどを載置し得る点で、本件考案図面に示す本件考案の実施例のものに較べて、実質的に相違しているとは、到底認められず、少なくとも、比較的小さくて軽い新生児モニターまたはその類似物(新生児用の関連器具など)を載置し得るのは、甲第四号証からきわめて明白といわざるを得ない。

(3) また、甲第二〇号証及び甲第二一号証は、本件考案の出願前に日本国または外国において頒布された刊行物であり、また、これらの書証には、甲第四号証のスタンダード型の装置がそれぞれ記載されている。そして、甲第二〇号証及び甲第二一号証には、光線治療器の上面が実質的に平坦なもの、本件考案の新生児モニターに相当する二種類の酸素モニター及び甲第五号証ないし甲第七号証の保育器と実質的に同一の保育器の移動棚に、右二種類の酸素モニターのうちの一つが載置されている状況が記載されている。

したがつて、甲第二〇号証及び甲第二一号証からも、甲第四号証のスタンダード型の装置において、光線治療器の上面に新生児モニターを載置することが可能であることが明白である。

(4) また、本件考案は、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載から明らかなように、光線治療器自体の考案ではなく、光線治療器を保育器本体との関連において、どこに使用するかに関する保育器用架台の考案であるから、当然、保育器本体を度外視することができないものであり、したがつて、次に詳述するように、その技術分野においても、甲第四号証保育器における保育器用架台と実質的に同一である。

即ち、甲第二号証の一頁上欄左側によれば、本件考案の国際特許分類表に基づく国際分類は、「A 61 C 11/00」である。そして、右の「A 61 C」は、甲第一八号証のA-一一六頁の左欄一行から三行までの記載から明らかなように、「病人の輸送または設備、手術用台またはいす、歯科用のいす、葬具装置」を意味している。また、右の「11/00」は、甲第一八号証のA-一一六頁の右欄五行の記載から明らかなように、「早産児保育器、保温器」を意味している。

したがつて、本件考案に係る「保育器用架台」は、早産児保育器に分類されるものであるから、前記甲第四号証保育器およびその保育器用架台とは全く同一の技術分野に属するものである。

このことは、螢光灯ユニツトの保育器における使用形態に係る考案が、電気機器の螢光灯ユニツトの類に分類されるのではなく、保育器の類に分類されるものであることを考慮すれば、一層明白である。

(5) よつて、甲第四号証保育器における保育器用架台は、前記相違点<2>において、本件考案と実質的に相違するものでないことは明らかである。

(三) 以上のとおりであるから、甲第四号証保育器における保育器用架台は、本件審決が挙げた前記相違点<1>及び<2>のいずれにおいても、本件考案と実質的に相違するものではなく、したがつて、甲第四号証には、本件考案が実質的に記載されているということができる。

この点に関する前記本件審決の認定は誤りである。

3  認定判断の誤り第3点

甲第一二号証(審判事件甲第一二号証)及び甲第一五号証(審判事件甲第九号証)には、それぞれ甲第四号証(審判事件甲第八号証)と同一の装置(スタンダード型)が記載されている。

したがつて、甲第一二号証及び甲第一五号証には、それぞれ右2に主張した甲第四号証の場合と同様に、本件考案が実質的に記載されている。

しかしながら、本件審決は、甲第一二号証については前記三5(三)で、甲第一五号証については同(四)で、そのことを実質的に否定している。よつて、この点についての本件審決の認定判断は誤りである。

4  認定判断の誤り第4点

本件審決は、本件考案が、甲第五号証ないし甲第七号証(審判事件甲第三号証ないし同甲第五号証)の内の少なくとも一つと、甲第四号証(審判事件甲第八号証)と、場合によつては甲第一三号証、甲第一四号証(審判事件甲第六号証、同甲第七号証)の内の少なくとも一つとに基づいて、きわめて容易に考案をすることができたものではない旨認定判断している(前記三5(一)、(四))が、右認定判断は誤りである。

(一) 甲第五号証ないし甲第七号証に各開示されている保育器用架台(以下、「甲第五-七号証架台」という。)は、本件考案における光線治療器の代わりに、移動棚とこの移動棚に設けられた螢光灯とから成る螢光灯ユニツトが配設されている点を除いて、本件考案と実質的に同一の構成である。

一方、本件考案におけるような光線治療器は、光を生体に照射することにより治療を行う器具であり、光を照射するために、通常、螢光灯が用いられる。ゆえに、本件考案における光線治療器は、基本的には、通常、移動棚とこの移動棚に設けられた螢光灯とから成つている。したがつて、本件考案と甲第五-七号証架台とは、基本的には、通常、移動棚ユニツト(光線治療器または螢光灯ユニツト)が移動棚と螢光灯とから成つている点まで、共通している。

また、各種の市販の螢光灯を新生児用の光線治療器の光源として用い得ることは、甲第一三号証及び甲第一四号証に例示されているように、周知である。この場合、光線治療効果は、新生児に対する光の照射強度及び照射時間にそれぞれ応じたものとなる。したがつて、甲第五-七号証架台の場合でも、大なり小なり光線治療効果が得られる。さらに、右のように市販の螢光灯をその光源として一般的に用い得る光線治療器が照明機能を供せて有することも、きわめて明白である。したがつて、光線治療器と螢光灯ユニツトとは、照明機能と光線治療機能とをともに備えている点で共通している。

要するに、甲第五-七号証架台における螢光灯ユニツトの螢光灯の本数が通常の光線治療器における螢光灯の本数と実質的に同一であれば、甲第五-七号証架台は、本件考案の保育器用架台とまつたく同一の構成である。したがつて、この本数の点が、甲第五-七号証架台と本件考案の保育器用架台との考案としての唯一の相違点である。なお、この場合、螢光灯の新生児に対する照射強度を光線治療器といえる程度に大きくすれば、甲第五-七号証架台は本件考案と実質的に同一となるが、照射強度を大きくするのに、必ずしも、螢光灯の本数のみを増やす必要はなく、螢光灯の本数と各螢光灯のワツト数のうちのいずれか一方または両方を増やすことによつて、前記照射強度を光線治療器といえる程度に大きくすることができる。

(二) 仮に、本件審決の認定のとおり、本件考案と甲第四号証保育器における保育器用架台(以下、「甲第四号証架台」という。)とが相違すると仮定しても、相違点は、前記2に記載した相違点<1>及び<2>のみである。

右相違点<1>は、甲第四号証保育器が、本件実用新案公報の図面に示す本件考案の実施例に係る閉鎖型対流式保育器ではなく、開放型輻射式保育器であるところから生じたものであり、熱の送り方を抜きにして、保育器の載置台を含めた保育器全体からみれば、本件考案の実施例の保育器と甲第四号証保育器は、相違点<1>の点において、構成上、何ら相違していない。したがつて、本件考案と甲第四号証架台とは、この場合でも、技術的思想としては、きわめて類似したものである。

さらに、前記相違点<2>についてみると、甲第四号証架台において、光線治療螢光灯ユニツトの上面に、新生児モニターよりも小さくて軽い新生児用の関連器具などを載置し得ることは、甲第四号証から明らかである。また、甲第五-七号証架台においては、移動棚とこの移動棚に設けられている螢光灯とから成る螢光灯ユニツトの上面に、新生児モニターを載置するようにしている。

よつて、甲第五-七号証架台において、甲第四号証の示唆に基づいて、移動棚に備えられている螢光灯の本数を増やすか、または、ワツト数の大きい螢光灯に変えるか、もしくは、その両方を行つて、新生児に対する照射強度を光線治療器といえる程度に大きくする(さらに必要があれば、タイマーを設けたり、電力容量を大きくしたりする)か、あるいは、甲第四号証保育器の場合と同樣の光線治療螢光灯ユニツトに置き代えることによつて、本件考案のように構成するのは、当業者がその必要に応じて任意に採用しえたきわめて些細な単なる設計事項にしかすぎない。

さらに、甲第五号証には、X線撮影を行うため、または、えい児の体重を測定するために引き込められる棚は、光線治療ランプアクセサリーを、のちに現場で取り付けるようにすることもできる、と記載されている。また、甲第六号証には、同証の七頁中欄上方に示されている光線治療ライトは、そのすぐ下方に示すように、保育器のフード(移動棚の下方にある。)上に載置して使用されることが記載されている。

これら甲第五号証及び第六号証は、保育器が光線治療螢光灯ユニツトをオブシヨンとして備える場合であるが、これらの知覚から、必要に応じて保育器(保育器用架台を含む。)に直接組み込むようにすることは、当業者が適宜行い得ることである。そして、この場合、甲第五-七号証架台において、螢光灯ユニツトを光線治療螢光灯ユニツトに置き換えることによつて、本件登録実用新案のように構成することも、当業者が必要に応じて適宜行い得ることの域を出ない。

(三) また、甲第四号証架台が本件考案と前紀相違点<1>で相違するとしても、この相違点<1>は、甲第四号証保育器が開放型輻射式保育器であるところから生じたものである。そして、甲第四号証架台は、その支柱及びその上方の部分(水平アーム、レール、光線治療器、新生児モニターなどの載置部など)の構成において、本件考案と全く同一である。

したがつて、甲第四号証保育器において、甲第五-第七号各証の少なくとも一つの示唆に基づいて、保育器の載置台(支柱が確立されたもの)及び保育器本体(新生児取容ベツドなど)を本件考案の実施例に示すような閉鎖型対流式保育器のものに置き代えることによつて、本件考案のように構成することは、当業者がその必要に応じて任意に採用し得たきわめて些細な単なる設計事項にしかすぎない。

なお、このことは、甲第五号証ないし甲第七号証にそれぞれ開示されている保育器の保育器本体及び載置台(閉鎖型対流式保育器本体及びその載置台)が周知であることを勘案すれば、一層明白である。換言すれば、本件考案は、甲第四号証保育器において、その保育器本体(新生児取容ベツド)及び載置台に右の周知のものを単に適用したにすぎない。

さらに、甲第四号証架台が本件考案と前記相違点<2>で相違するとしても、甲第四号証架台において、甲第五号証ないし甲第七号証の少なくとも一つの示唆に基づいて、光線治療螢光灯ユニツトの上面に新生児モニターまたはその類似物を載置し得る程度にその高さ及び強度のいずれか一方または両方を変更することによつて、本件考案のように構成することは、当業者がその必要に応じて適宣なし得たことである。

さらにまた、仮に甲第四号証架台が本件考案と前記相違点<1>及び<2>の両方で相違するとしても、甲第四号証架台において、甲第五号証ないし甲第七号証の少なくとも一つの示唆に基づいて、本件考案のように構成することは、相違点<1>及び<2>についてそれぞれ右に述べたのと同じ理由から、当業者がその必要に応じて任意に採用し得たきわめて些細な単なる設計事項にしかすぎない。

(四) 本件明細書には、

(1) 光線治療器7は常に保育器1の上方に位置し、X線撮影、掃除又はえい児の出し入れのためフード2を開閉する時には容易に光線治療器7を保育器1の上方位置から外方に移動することができ、各々の作業の邪魔になることはない。

(2) 新生児モニター8を光線治療器7の上面に載置したときは、新生児モニターを監視しながら光線治療器及びX線撮影を行うことができる。

(3) 新生児モニター8の重量は約二〇kgで光線治療器の重量は約八kgであるが、これらの重量に十分耐えることができる。

という三つの効果が記載されている。

しかし、右の効果(1)、(2)及び(3)は、いずれも、甲第四号証架台及び甲第五-七号証架台がそれぞれ奏するものである。

したがつて、本件考案の効果は、甲第四号証架台及び甲第五-七号証架台がそれぞれ奏する効果と同一である。

(五) 右のとおりであるから、本件考案は、甲第五号証ないし甲第七号証の少なくとも一つと、甲第四号証とに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとみるのが相当である。この場合、新生児用の光線治療器の光源として市販の螢光灯を用い得ることが開示されている甲第一三号証及び甲第一四号証の示唆があれば、当業者がその必要に応じて一層容易に考案をすることができたものということができる。

よつて、この点における本件審決の認定判断は、明らかに誤つている。

5  認定判断の誤り第5点

本件審決は、甲第五号証ないし甲第七号証(審判事件甲第三号証ないし同甲第五号証)の内の少なくとも一つと、甲第一〇号証(審判事件甲第一〇号証)若しくは甲第一一号証(審判事件甲第一一号証)と又は甲第一二号証(審判事件甲第一二号証)と、場合によつては甲第一三号証、甲第一四号証(審判事件甲第六号証、同甲第七号証)の内の少なくとも一つとに基づいて、きわめて容易に考案をすることができたものではない旨認定判断している(前記三5(二)、(四))が、右認定判断は誤りである。

即ち、甲第一〇号証及び甲第一一号証は、フリースタンデイング型ではあるが、その支柱の上方の部分(水平アーム、レール、光線治療器、新生児モニターなどの載置部)の構成は、甲第四号証のスタンダード型の装置と全く同一である。

ゆえに、本件考案は、前記4の(一)ないし(五)とほぼ同様の理由から、甲第五号証ないし甲第七号証の少なくとも一つと、甲第一〇号証又は甲第一一号証と、場合によつては甲第一三号証、第一四号証の内の少なくとも一つとに基づいてきわめて容易に考案をすることができたものである。

また、甲第一二号証には、甲第四号証と同一の装置(スタンダード型)が記載されている。そして、甲第一二号証の大きい方の写真(三八頁)には、一対のヒータハウジングの間に光線治療器が取り付けられた状態が示され、同証の小さい方の写真(三九頁)には、一対のヒータハウジンダの間に光線治療器が取り付けられていない状態が示されている。

ゆえに、本件考案は、前記4の(一)ないし(五)と同様の理由から、甲第五号証ないし甲第七号証の少なくとも一つと、甲第一二号証と、場合によつては甲第一三号証、甲第一四号証の内の少なくとも一つとに基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとみるのが相当である。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認め、同四中、後記認める部分、知らない部分以外は争う。本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の取消事由はない。

二  認定判断の誤り第1点について

1  請求の原因四1冒頭の事実中、本件審決が原告主張のように認定していることは認める。

同四1(一)中、甲第五号証ないし甲第七号証に原告主張の文言が記載されていることは認める。

同四1(二)中、甲第四号証の最終頁に原告主張の文言が記載されていることは認める。

2  実用新案法第三条第一項第三号の「頒布」とは、刊行物が不特定多数の者の見得るような状態に置かれることをいうものと解されるところ、原告は、甲第四号証ないし甲第七号証が頒布されたと主張するが、いつ、どこで、誰の、いかなる行為によつて、不特定多数の見得る状態に置かれたのかという具体的事実の主張は全くされていない。

仮に、甲第四号証ないし甲第七号証がプリントされた日が原告主張のとおりであつたとしても、そのことが即ち、頒布の本質的要素である、その文書の発行時期、発行形態を意味するものではない。

三  認定判断の誤り第2点について

1  請求の原因四2冒頭の事実中、本件審決が原告主張のように認定していることは認める。

同四2(一)(1)中、甲第四号証のスタンダード型の装置(以下、「甲第四号証スタンダード型装置」という。)において、支柱が甲第四号証の三頁の写真の左側の装置における最下部のやや縦長の四角な箱状のもの(以下この部分を「支持台」という。)に確立されていること、甲第四号証スタンダード型装置が開放型輻射式保育器であることは認め、甲第四号証スタンダード型装置のテープル(新生児収容ベツド)が、ベツド載置台に固定されていることは知らない。

甲第四号証スタンダード型装置は、あくまでも開放式保育器であつて、本件考案における「保育器」ではない。

また、開放式保育器が必ず、新生児収容ベツド、新生児加熱手段及び載置台から構成されているものではない。

同四2(一)(2)中、乙第九号証に原告主張の記載があり、そこで、「ふ卵器形保育器」とは、閉鎖型保育器を実質的に指していること、原告主張の「医学大辞典」に原告主張の記載があること及び本件審決が甲第四号証スタンダード型装置を開放式保育器としていることは認める。

同四2(二)(1)中、本件考案において光線治療器の上面に新生児モニター等の載置部を形成していることは認める。

同四2(二)(3)中、甲第二〇号証及び甲第二一号証に二種類の酸素モニターが記載されていることは認めるが、これらの酸素モニターが本件考案の新生児モニターなどに相当すること並びに甲第二〇号証及び甲第二一号証からも甲第四号証スタンダード型装置において光線治療器の上面に新生児モニター等を載置することが可能であることが明白であることは否認し、その余は知らない。

同四2(二)(4)中、甲第二号証に記載された国際分類及び甲第一八号証の記載に基づく国際分類の意味は認める。

2  ある考案がその実用新案出願前に頒布された刊行物に記載されている考案と同一であるか否かは何によつて判断するかという新規性の判断の基準について、判例は、「新規ナル考案ト謂ヒ得ヘキヤ否ハ物品ノ種類形状構造及組合セニ着眼シテ之ヲ決スヘキモノニシテ縦令其ノ登録出願前既ニ同一又ハ類似ノ考案力公然用ヰラレ又ハ知ラレタル事実アリトスルモ同一又ハ類似ノ物品ニ関セサル以上直ニ該実用新案ヲ以テ実用新案法ニ所謂考案ト称シ得サルモノト速断シ若ハ新規ノモノニアラスト為スコトヲ得ス」(大判昭和七年一〇月二二日判例工業所有権法第三巻五八〇頁)としている。

本件についてこれをみると、以下に述べるとおり、本件考案は保育器用架台にかかるものであり、甲第四号証スタンダード型装置は「開放式保育器」であり、従つて両者の物品は非類似である。

(一) 本件考案の請求の範囲について考えると、本件考案の対象とするところは、甲第二号証の実用新案公報から明らかなとおり、保育器用架台及び保育器の載置台である。

ところで、乙第四号証、乙第九号証及び「(乳幼児を)保護し育てること」という「保育」の定義(広辞苑)並びに甲第二号証から考えれば、本件において保育器とは、<1>未熟児または新生児を<2>保護及び養育するために<3>フードによつて外部から遮断して温度等を一定の状態に保ちながら<4>ある程度の期間収容する装置ということができる。

原告は「通常は、保育器本体と載置台とを含めた全体とを保育器という」と主張し、確かに、一般的にはその様な呼称を用いる場合がないとはいえないであろう。しかし、例えば、原告自身、乙第八号証において本体部分のみを保育器としているし、また、乙第一一号証に「アトムAHキヤビネツト」の説明として、「アトム保育器用の高低キヤビネツトです。」とあるとおり、保育器とそのキヤビネツト(載置台)は別のものであることを前提としてカタログを作製している。物品に関する考案を対象とする実用新案法が問題となつている本件においては、前記のような大まかな定義は適当ではない。

(二) 甲第四号証スタンダード型装置を敢えて乙第四号証の「医療用具の一般的名称と分類」によつて分類するならば、甲第四号証スタンダード型装置全体を一つの物として、「開放式保育器」となる。けだし、本件審決に、「甲第四号証の装置は保育器として使用できることは示唆されているが(開放型保育器)、その場合はあくまでも支柱に突設された水平なハウジングに付設されたヒーターがあつて新生児の体温維持等の保育器の機能が奏するものと認められるので、支柱がテーブルに確立されたスタンダード型の装置であつたとしても、支柱及びヒーターハウジングを一体として含んだものを保育器と解すべき」(前記第二(請求の原因)三4(三))とあるとおり、甲第四号証スタンダード型装置が、その本来の機能である新生児の手術等を行うためには、新生児の体温の維持のための装置が不可欠であるところ、架台上につけられたヒーターがあつてはじめて体温維持等の機能を発揮できるからである。

結局、甲第四号証スタンダード型装置は、「手術台又は処置テーブル」といわれる部分(以下、「処置テーブル」という。)、その上に存する架台、及び処置テーブルが取り付けられている台から構成されており、これらは不可分である。

そして、甲第四号証スタンダード型装置は全体として「開放式保育器」に該当するものであるが、「開放式保育器」は、新生児に対する手術等を主たる目的とし、フードによつて外部から遮断することがなく、さらにある程度の期間新生児を収容することを目的としていない点で、本件でいう「保育器」には該当しないのである。まして、本件登録実用新案が対象とする「閉鎖循環式保育器」とは全く異なるものである。

(三) 以上をまとめるならば、本件考案は、保育器用架台と保育器の載置台からなるものであるが、本件考案の対象となるべき「保育器」とは、「閉鎖循環式保育器」である。一方、甲第四号証スタンダード型装置は、支持台、処置テーブル及びその上に存する架台が不可分として一体であり、それが全体として「開放式保育器」を構成する。したがつて、両者は、その構成する要素が二つか三つかという差があるばかりか、前者は「閉鎖循環式保育器」のための装置であり、後者は全体として「開放式保育器」であるという本質的な差を有しており、両者は非類似の物品である。

本件審決は、本件考案と甲第四号証スタンダード型装置との第一の違いは、「<1>本件考案は、支柱が保育器の載置台に一体となつて確立されているのに対して、甲第四号証では手術台又は処置テーブルと一体となつている(中略)という点で異なつている」(前記第二(請求の原因)三4(二))としているが、前記(二)に引用した本件審決の部分は、「相違点<1>に関して」述べられている部分であり、両者を照らし合わせてみれば、まさに本件考案と甲第四号証スタンダード型装置とが非類似であることを指摘していることが分かる。この点において本件審決の認定判断は正当である。

3  仮に、本件考案の物品が甲第四号証スタンダード型装置に類似する物品であるとしても、両者の考案には以下のような相違があり、同一性があるとはいえない。

考案の同一性を判断するには、考案の目的、その目的を達成するために具体化された技術的構成、その技術的構成を実施する結果生ずる作用効果をそれぞれ比較検討し、それらを総合するべきであるので、以下この考え方に従つて両者の同一性を検討する。

(一) 本件考案の目的は、本件明細書に明らかなとおり、<1>保育器に入るような未熟児には黄疸の症状を呈する者が多く、したがつて常に光線治療器を保育器の上方に具備する必要があること、<2>未熟児には呼吸状態や心拍数を監視するために新生児モニターも必要であること、<3>従前の光線治療器では、その着脱に手数が掛かりX線撮影等が迅速にできない等の不便があつたこと、<4>新生児モニターを保育器の横に設置した場合等には場所的スペースが無駄であること、といつた必要性を充足し、不便さを解消せんとするものである。

これに対し、甲第四号証スタンダード型装置自体は、<1>新生児に対して処置又は手術をするため、<2>開放型として新生児に十分に接近できるようにし、<3>右処置の間新生児の体温を維持するとともに、<4>螢光灯の照明によつて新生児を見易くすることを目的とする。即ち、甲第四号証スタンダード型装置の考案の目的は、本件考案の目的とは、全く異なる。

(二) 以上に列挙したような考案の目的の差異を反映し、本件考案と甲第四号証スタンダード型装置とには、以下のような技術的構成及び作用効果上の相違点がある。

(1) 本件考案は、架台に光線治療器を具備するのに対し、甲第四号証スタンダード型装置では架台に「デユアル・オーバーヘツド・モジユール」が具備されるだけである。

(2) 本件考案の光線治療器は、黄疸の治療を目的とするのに対し、甲第四号証スタンダード型装置の「デユアル・オーバーヘツド・モジユール」は、熱を輻射し、また、乳児に螢光灯による照明を当てて乳児を見易くするに過ぎない。

(3) 甲第四号証スタンダード型装置において、架台の「デユアル・オーバーヘツド・モジユール」は、二つに別れている点で本件考案とは構成が全く異なる。更に、甲第四号証の写真を見れば分かるとおり、「デエアル・オーバーヘツド・モジユール」の上面は傾いていて水平ではないため、少なくとも何らかの付属品を付けない状態ではその上面にモニター等を置くことは不可能である。

(4) 甲第四号証スタンダード型装置においても「デユアル・オーバーヘツド・モジユール」の間に、光線治療器を取り付けることができるが、光線治療器はあくまで付属品である。

(5) 本件考案では、水平アーム間に配設した光線治療器の上面に、新生児モニター等の載置部を形成してあるのに対し、甲第四号証スタンダード型装置には、このような構成が示されていないし、示唆もなされていない。また、付属品の光線治療器についても同様である。さらに、仮に甲第四号証スタンダード型装置の上部に、光線治療器を取り付けた上、さらにその上部にモニターを載置できたとしても、人間の身長を遥かに上回る高さとなるため、監視の機能を十分に果たすことは到底不可能である。

(6) 甲第四号証スタンダード型装置にモニター等を載置するためには、別部品として具備されているモニタリング・エキツプメント・シエルフを使用する必要があるが、本件考案のものは光線治療器の上面にモニター等の載置部を形成しており、別部品を使用しなくても、モニター等を載置できる。

(7) 甲第四号証の写真を見れば分かるとおり、甲第四号証スタンダード型装置の二本の支柱の間にはサーボ・コントロールが設置され、また、同支柱の処置テーブルの反対側の部分には前記モニタリング・エキツプメント・シエルフも設置できるようになつているが、これはあくまで処置テーブルが中心だからであつて、仮に処置テーブルの代わりに「閉鎖循環式保育器」を設置するならば、そのフードに遮られてサーボ・コントロールの操作及びモニターの使用は困難となる。

(8) 本件考案では、支柱が「保育器」を載せる「載置台」に一体に確立されているのに対して、甲第四号証スタンダード型装置では、支柱が「開放式保育器」自体の構成部分である手術台又は処置テーブルと一体になつている。

(9) 本件考案に、閉鎖循環式保育器を設置した状態では、甲第四号証スタンダード型装置とは左記のような相違ができる。

本件考案 甲第四号証装置

温度調整の方式 エアーコントロール 輻射式

湿度調整の可否 可能 不可能

酸素濃度調整の可否 可能 不可能

細菌感染防御策 有 無

(三) 右(二)(1)ないし(9)に述べたとおり、主なものだけでも、本件考案と甲第四号証スタンダード型装置とはこのような相違点があるのであり、両者の考案が同一であるとする原告の主張は到底認められない。

四  認定判断の誤り第3点について

請求の原因四3の事実中、甲第一二号証及び甲第一五号証に、甲第四号証スタンダード型装置が記載されていることは知らない。

五  認定判断の誤り第4点について

1  請求の原因四4冒頭の事実中、本件審決が原告主張のように認定判断していることは認める。

同四4(二)中、本件考案と甲第四号証スタンダード型装置とが相違すること、相違点<1>の相違があること、甲第四号証スタンダード型装置が開放式保育器であること、甲第五号証には、X線撮影を行うため、または、えい児の体重を測定するために引き込められる棚は、光線治療ランプアクセサリーを、のちに現場で取り付けるようにすることもできる旨記載されていること及び甲第六号証には、光線治療ライトは、保育器のフード上に載置して使用されることが記載されていることは認め、甲第四号証スタンダード型装置の上に新生児モニターより小型の関連器具を載置し得ること及び甲第五号証架台の上に新生児モニターを載置し得ることは知らない。

同四4(四)中、本件明細書に原告主張の三つの効果が記載されていることは認める。

2  本件考案と、甲第四号証スタンダード型装置とでは、前記三3において詳細に主張したように、考案の目的、技術構成及び作用効果が全く異なるのであつて、とても甲第四号証スタンダード型装置を元として、それに例えば甲第五号証に開示された保育器架台(以下、「甲第五号証架台」という。)から示唆を受けて本件考案を考案するなどということは不可能である。

したがつて、以下においては、本件考案と、閉鎖循環式保育器を対象とする点で似ている甲第五号証架台を発想の出発点として検討していくこととする。

3  螢光ランプと光線治療器とは、以下に述べるとおり本質的相違があるのであつて、この相違点は原告の主張するようなきわめて些細な設計変更にすぎないものとは認められず、螢光ランプを光線治療器に代えるという考案がきわめて容易であるとは到底いえない。

(一) まず、螢光ランプは、物を認識可能にしたり、あるいは色彩をより良く認識できるようにするものである。これに対して、光線治療器は純然たる医療器具であり、完全に別異の技術分野に属する。

(二) 光線治療器においては、黄疸と関係のあるビリルビンの吸収スベクトルを含んだ光を、十分な照射強度になるように新生児に当てる必要があること等から、一般用ではない特別の光線治療用螢光管を使用する必要がある。

(三) その他、光線治療器は、一般の照明器具とは異なつた構造、構成、作用を有している。まず、光線治療器は多数の光線治療用螢光管を収納できると共に、光線治療器の熱発生による加熱を防ぐためにフアンが具備されている等熱を排出することが可能な構造になつている。また、光線治療器が医療機器であることから、一般にヒユーズ、両切りスイツチを備え、医用電気機器安全通則に則つていること、並びに新生児に対して光線を照射する時間を測定するため及び光線治療用の螢光管の寿命を計測するための二種類のタイマーを通常具備していること等の構成上の相違がある。さらに、光線治療器は、一般の照明器具に対し、その発生する光線の波長及び光度等において顕著な差異がある。

(四) 以上特に(三)に述べたことから、光線治療器は、一般の照明器具に比べて、体積及び重量とも大きくなる。

このような本質的差異がある以上、同じく光を発するからといつて、甲第五号証架台の照明用螢光灯ランプを医療用光線治療器に置換する発想が簡単に出てくるとは到底いえないのである。

4  原告は、甲第五号証及び甲第六号証において、付属品の光線治療器を閉鎖循環式保育器の上部に載置して使用することが示されているから、それを示唆として本件考案がきわめて容易に考案できる旨主張する。

甲第五号証ないし甲第七号証については、確かに光線治療器を別途付属品として取付けることができるようである。しかし、甲第六号証の抄訳文(3)に「頭上の棚の有無にかかわらず、利用することができる。」とあるとおり、光線治療器は、閉鎖循環式保育器の上部フードに直接乗せるのであつて、その上の引き込み可能な台またはその外枠部分に付着して棚と共に移動するものではない。つまり、これらの甲号証に示されたものには、光線治療器を簡易に移動可能とすること及び光線治療器を棚として利用しようとする技術思想はいずれも全く開示されていないのである。これはまさに、甲第二号証の図面1で示した、本件考案において克服しようとしていた従来型に他ならない。かようなものから、引き込み可能な台を光線治療器に合体させたという本件考案を、考案したことは画期的といえよう。

なお、原告提出の甲第五号証抄訳文(3)は、「棚は、オハイオ社の光線治療ランプアクセサリーを、のちに現場で取り付けるようにすることもできる。」とする。そこで、この「取り付ける」の意味が問題となるが、まず、同所においては「光線治療ランプアクセサリー」についての説明が一切なく、それがいかなるものであるか、例えば甲第六号証七頁の「インクベーター・フオトセラピー・ライト」と同一のものであるか否かは不明である。

ところで、甲第五号証は原告の主張によれば一九七〇年発行であり、甲第六号証が同じく一九七三年発行であるところ、後に発行された甲第六号証の七頁中段上から二葉目の写真を見ると、「インクベーター・フオトセラピー・ライト」なるものは架台より突出した水平アームから吊り下げられるのではなく、フードの上部に直接載置して使用するように見える。この点は、甲第六号証七頁中段上より一葉目の光線治療器の下部にはフード上に載置するためと思われる突起が存在することからも裏付けられる。甲第五号証の「光線治療ランプアクセサリーは甲第六号証の「インクベーター・フオトセラピー・ライト」と同様である可能性が高いところ、甲第五号証においても、当然右甲第六号証と同様の使用方法であつたと思われる。この点は原告の主張によれば一九七八年発行になると思われる乙第三号証一三頁上部の写真からも同様となる。そして、「インクベーター・フオトセラピー・ライト」は直接保育器のフード上に載置されるのであるから、「インクベーター・フオトセラピー・ライト」が棚と共に前後に移動することはない。つまり、前記甲第五号証抄訳文(3)において、「棚は、光線治療ランプアクセサリーを、のちに現場で取付けるようにすることもできる」とある部分は、「光線治療ランプアクセサリー」が単に保育器フード上に載置することを意味するにすぎないのである。

さらに、甲第五号証架台及び甲第四号証スタンダード型装置のいずれをとつてみても、光線治療器を棚として利用しようという技術的思想は存在しない。

まず、前者においては、前述したとおり、光線治療器はフードの上に直接載置するので、その上には引き込み可能な棚が位置することから、右光線治療器を棚として使用することは不可能である。また、後者においては、架台の支柱の間に別途棚を設置すべく付属品が用意してあるのである。

5  結局、本件考案は、本件明細書の「考案の詳細な説明」の欄記載のような顯著な諸効果を有するものであるから、」実用新案としての進歩性を十分に有するものである。

六  認定判断の誤り第5点について

1  請求の原因四5冒頭の事実中、本件審決が原告主張のように認定判断していることは認める。

同四5中、甲第一〇号証及び甲第一一号証は、フリースタンデイング型ではあるが、その支柱の上方の部分の構成が、甲第四号証スタンダード型装置と全く同一であること及び甲第一二号証に原告主張のような記載があり、その写真に原告主張のとおりの状態が示されていることは知らない。

第四  証拠関係

証拠関係は、記録中の書証目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本件考案の要旨)及び同三(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。

二  本件考案について

成立について当事者間に争いのない甲第二号証(本件考案の実用新案出願公告公報)によれば、本件考案の明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件考案の目的・技術課題、構成、効果について次のとおり記載されていることが認められる。

1  目的・技術的課題

(一)  本考案は移動可能な光線治療器を備えた保育器用架台に関する。光線治療器は、黄疸の治療には不可欠であり、特に保育器に入るようなえい児(患者)は未熱児が多く、この黄疸の症状が出易く、依つて、光線治療器は常に保育器の上方に備えておく必要がある。また、特に未熱児に対しては、呼吸状態や心拍数を監視するために新生児モニターも必要である。(甲第二号証一頁1欄一二行から二一行まで)

(二)  従来においては、第1図(本判決別紙本件考案図面第1図)に示すように保育器Aと光線治療器Bとは個別的で、光線治療器Bは一点鎖線で示すように直接保育器AのフードA1上に載せて吸着板B1により固定するか、またはスタンドB2により吊り下げることにより、保育器Aの上方に光線治療器Bを備えていた。しかし、この場合、保育器AのフードA1上からのX線撮影、或は掃除やえい児(患者)の取出等のためにフードA1を開くときは、その都度フードA1上から光線治療器Bを取り外さなければならないので、取り外し操作が面倒であるばかりでなくX線撮影等を迅速に行うことができず、また、X線撮影等の作業終了後、再び光線治療器Bを保育器Aの上方に設置しなければならない。また、新生児モニターCは、保育器Aの横に設置する場合もあり、この場合には両者の設置場所の外に、フードA1上から取り除いた光線治療器Bの置場所も予め用意しなければならないので、広い占有面積と占有空間を必要とする欠点があつた。

本考案は上記のような欠点を解消せんとしてなされたものであ(る)。(甲第二号証一頁1欄二二行から2欄一八行まで)

2  本件考案の構成

(一)  当事者間に争いのない請求の原因二(本件考案の要旨)のとおり。

(二)  本考案を第2図以下(本判決別紙本件考案図面第2図以下)の実施例によつて詳記すると・・・7は光線治療器で、蛍光灯と患者用の2個のタイマー(図示せず)等を備えており、上紀水平アーム6a、6b間に配設されている。・・・また、光線治療器7の上面は未熟児の呼吸状態や心拍数を監視するための新生児モニター8等を載置できるように水平面に形成してあ(る)。(甲第二号証二頁3欄一行から二七行まで)

3  作用効果

(一)  黄疸等の光線治療に際しては、第2図で示すように光線治療器7を前方に水平移動して保育器1のフード2の上方に停止させて照射を行う。そして、フード2の上方からX線撮影を行うとき、或はフード2を開けて中を掃除したり、えい児を出し入れするときは、第4図で示すように光線治療器7及び該治療器7の上面に載置した新生児モニター8等を後方に水平移動させれば、保育器1の上方に空間ができるので、光線治療器7に邪魔されることなく、各々の作業を行うことができる。(甲第二号証二頁3欄三九行から4欄一〇行まで)

(二)  そして、新生児モニター8を光線治療器7の上面に載置したときは、新生児モニター8を監視しながら光線治療及びX線撮影等を行うことができる。(甲第二号証二頁4欄二三行から二六行まで)

三  認定判断の誤り第1点について

1  公証人作成部分の成立については当事者間に争いがなく、その公証人作成部分によつてその余の部分も真正に成立したものと認められる甲第一九号証によれば、次の事実が認められる。

(一)  甲第一九号証中にA、B、C及びDとして引用されているパンフレツトは、一九八四年四月六日に旧商号「オハイオ・メデイカル・プロダクツ(Ohio Medica Products)」から現在の商号「オーメダ(Ohmeda)」に変更した会社の製品のパンフレツトである。

(二)  A、B、C及びDのパンフレツトは、オーメダ(オハイオ・メデイカル・プロダクツ)のカナダ及びマデイソンの両オフイスによつて印刷され、その後すぐに、オハイオ・メデイカル・プロダクツの複数のセールスマンによつて複数の病院に配布されたものである。

(三)  パンフレツトA(Form No. 519)に記載された、コード「6-73-30」は、このパンフレツトが一九七三年六月に三万部印刷されたことを示している。

パンフレツトB(Form No. 1863)に記載された、コード「12-71-3」は、このパンフレツトが一九七一年一二月に三〇〇〇部印刷されたことを示している。

パンフレツトC(Form No. 8120)に記載された、コード「6-73-30」は、このパンフレツトが一九七三年六月に三万部印刷されたことを示している。

パンフレツトD(Form No. 324)に記載された、コード「2-74-30」は、このパンフレツトが一九七四年二月に三万部印刷されたことを示している。

2(一)  前記甲第一九号証と甲第四号証ないし甲第七号証(特にそれらの最終頁。甲第四号証ないし甲第七号証の成立については後に判断する。)とを対比し、弁論の全趣旨を併せれば、甲第一九号証にいうパンフレツトA(Form No. 519)の表紙や末尾の余白に、「新生児用集中・治療監視装置」という表題を貼付し、日本の総代理店名やその営業所所在地を日本語のスタンプで加入したものが甲第四号証であること、甲第一九号証にいうパンフレツトB(Form No. 1863)の表紙の余白に、クアラルンプール所在の代理店名を英語のスタンプで加入したものが甲第五号証であること、甲第一九号証にいうパンフレツトC(Form No. 8120)の表紙下部に、日本の総代理店名やその営業所所在地を日本語で加入したものが甲第六号証であること、甲第一九号証にいうパンフレツトD(Form No. 324)が甲第七号証であることが認められる。

(二)  右(一)の事実に前記1(一)ないし(三)に認定の事実を総合すると、甲第四号証に日本語の貼付、加入がされる前のパンフレツトA(Form No. 519)は一九七三年六月に三万部、甲第五号証にクアラルンプールの代理店名の加入がされる前のパンフレツトB(Form No. 1809)は一九七一年一二月に三〇〇〇部、甲第六号証に日本語の加入がされる前のパンフレツトC(Form No. 8120)は一九七三年六月に三万部、甲第七号証のパンフレツトD(Form No. 324)は一九七四年二月に三万部が、それぞれ、当時の商号を「オハイオ・メデイカル・プロダクツ(Ohio Medical Products)といい、現在「オーメダ(Ohmeda)」を商号とする会社が発注して印刷作成された同社の製品の宣伝、販売促進用のパンフレツトであること及びそれらのパンフレツトは、印刷の後すぐに、遅くとも本件考案の実用新案登録出願の日である昭和五二年二月四日より前に、オハイオ・メデイカル・プロダクツの複数のセールスマンによつて複数の病院に配布されたものであることが認められる。

(三)  右(一)、(二)認定の事実に甲第四号証及び甲第六号証の存在自体並びに弁論の全趣旨を併せると、甲第四号証及び甲第六号証は、前記認定のようにオハイオ・メデイカル・プロダクツ社が発注作成したパンフレツトA(Form No. 519)及びパンフレツトC(Form No. 8120)が、それらが印刷された一九七三年(昭和四八年)六月からさほど遅くない時期に同社の総代理店の訴外株式会社アムコに相当部数渡され、同社が日本語部分を加入したものであり、同じ物は、株式会社アムコにより、いずれも遅くとも本件考案の実用新案登録出願の日である昭和五二年二月四日より前に、日本国内等で、登載された商品の販売先として期待される病院等にそれぞれ配布されたものと推認することができる。

また、前記(一)、(二)認定の事実に甲第五号証の存在自体及び弁論の全趣旨を併せると、甲第五号証は、前記認定のようにオハイ・メデイカル・プロダクツ社が発注作成したパンフレツトB(Form No. 1863)が、それが印刷された一九七一年(昭和四六年)一二月からさほど遅くない時期に、同社のクアラルンプールの代理店である訴外E・I・PARRISH SND・BHD・社に相当部数渡され、同社が英語の社名等を加入したものであり、同じ物は、同代理店により、遅くとも本件考案の実用新案登録出願の日である昭和五二年二月四日より前に、マレーシア等で、登載された商品の販売先として期待される病院等に配布されたものと推認することができる。

3  右(一)ないし(三)認定の事実によれば、甲第四号証及び甲第六号証の日本語部分は訴外株式会社アムコが、甲第五号証の代理店名部分は訴外E・I・PARRISH SND・BHD・社が、それぞれ作成し、甲第四号証ないし甲第六号証のその余の部分及び甲第七号証はオハイオ・メデイカル・プロダクツ社が作成したものであり、かつ、いずれも、遅くとも本件考案の実用新案登録出願の日である昭和五二年二月四日より前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であると認められる。

よつて、甲第四号証ないし甲第七号証が本出願前に頒布されていたものとは認められない旨の本件審決の認定判断は誤りであり、原告主張の認定判断の誤り第1点は理由がある。

四  認定判断の誤り第4点について

1  前記甲第五号証及び甲第六号証によれば、オハイオ・メデイカル・プロダクツ社の発行した、同社の販売する新生児保育器及びその付属品の宣伝、販売促進用のパンフレツトである右各号証には、次のような記載があることが認められる。

(一)  閉鎖式保育器の載置台に、上端に水平アームを突設した一対の支柱を立て、該水平アームは保育器上面より十分高い位置において平行且つ水平となるように形成され、右水平アーム間に配設された載置部に該載置部の平面よりやや小型の計器を載置した状態の保育器用架台の図(甲第五号証及び甲第六号証各六頁左上の図。本判決別紙甲第五号証図面上図参照。)及び右同様の保育器用架台において、水平アーム間に配設された載置部がレールを介して保育器の真上方位置より後部外方に移動された状態の写真(甲第五号証及び甲第六号証各六頁右の図。本判決別紙甲第五号証図面下図参照。)。

(二)  サーボ・ケア、ケアレツト及びすべての一九〇シリーズの保育器用のオーバーヘツド引き込み可能棚。蛍光灯、取付けソケツト、九インチのサービス・コード用の六個の一一五ポルト電気取出口を含む。ストツクナンバー二一七-三六二四-八〇〇。(甲第五号証及び甲第六号証各六頁左欄下から一一行目から下から八行まで)

(三)  引き込み可能な棚 この棚は、監視装置(五〇ポンドまで(甲第五号証)、三五ポンドまで(甲第六号証))を操作したり、観察するのに都合の良い高さ位置に、この監視装置を安全に支持し得るように構成されている。この棚は、ステンレス鎖から成り、耐久性の観点から及び掃除の容易さのために、クロムメツキが施されている。この移動棚上の蛍光灯には、えい児の身ぶりを見るための補助ランプが設けられている。この棚は、X線撮影を行うために、あるいは、えい児の体重を測定するために引き込められる。(甲第五号証及び甲第六号証各六頁右欄一〇行目から一八行まで)

(四)  棚は、オハイオ社の光線治療ランプアクセサリーを、のちに現場で取り付けるようにすることもできる。(甲第五号証六頁右欄二七行から二八行まで)

(五)  保育器光線治療ライトは、高度に携帯可能で収納が容易である。使用中はフード上に載置される。三つのスタート用プレススイツチによつてコントロールされる五個の二〇W蛍光灯を内蔵している。マツトレスレベルで最高五五〇フートキヤンドルを供与する。頭上の棚の有無にかかわらず、利用することができる。(甲第六号証七頁左欄四行から九行まで)

閉鎖式保育器のフード上に保育器光線治療ライトが載置されている状態の写真(甲第六号証七頁中欄上から二枚目の写真)

2(一)  右1(三)の記載によれば、甲第五号証及び甲第六号証に記載の棚は、三五ポンドないし五〇ポンドの監視装置を安全に支持し得るように構成されているのであるから、右各号証に記載の架台の一対の支柱は保育器の載置台に確立されているものであり、また、監視装置とは新生児モニターを含むものと解されるから、右各号証に記載の棚の水平アーム間に配設された載置部は新生児モニター等の載置部と認められる。

したがつて、甲第五号証及び甲第六号証には、保育器の載置台に、上端に水平アームを突設した一対の支柱を確立し、該水平アームが保育器上面より十分高い位置において平行且つ水平となるよう形成すると共に上面に新生児モニター等の載置部を形成し下部に蛍光灯を備えた棚を前記水平アーム間に配設し、該棚をレールを介して保育器の真上方位置から後部外方に移動できるようにしたことを特徽とする蛍光灯等を備えた保育器用架台が記載されているものと認められる。

(二)  本件考案とこの甲第五号証及び甲第六号証に記載された保育器用架台を比較すると、本件考案においては、水平アーム間に配設されているのが光線治療器であるのに対して、甲第五号証及び甲第六号証に記載されたものは、水平アーム間に配設されているのが蛍光灯を備えた棚である点で相違し、その余の点は一致しているものと認められる。

3  右2(二)の相違点について検討する。

(一)  前記二(本件考案について)1及び2(二)認定の本件明細書の記載によれば、光線治療器そのものは本件考案の出願前から知られていたもので、本件考案の実施例に配設されている光線治療器は、蛍光灯と患者用のタイマー等を備えているものであることが認められる。

(二)  前記1(四)認定の甲第五号証の記載によれば、甲第五号証には、同号証記載の保育器用架台の保育器上部の引き込み可能な棚(保育器の真上方位置から後部外方に移動できる棚)に、光線治療ライトを現場で取り付けることが記載されているものと認められる。ただし、その引き込み可能な棚にどのような状態で光線治療器を取り付けるかは明らかではない。

前記1(五)認定の甲第六号証の記載によれば、甲第六号証には、同号証記載の保育器用架台の付属品である保育器光線治療ライトは五個の二〇W蛍光灯を内蔵していることが記載されているものと認められる。ただし、その光線治療ライトは、保育器のフードの上に載置されて使用されるものとされている。

(三)  成立について当事者間に争いのない甲第一四号証によれば、甲第一四号証(大西鑛寿他著「新生児黄疸の光療法におけるビリルビンの代謝」日本小児科学会雑誌第七四巻第一号別冊・昭和四五年一月一日発行)には、最近「新生児黄疸の光治療」がLuccyらにより再びとり上げられ、有効であることが確認されて以来にわかに脚光を浴び欧米において広く用いられるようになつた旨(甲第一四号証一五九頁本文一四行から一五行まで)、光療法におけるビリルビンのin vivoでの分解排泄の機序を解明する研究のための実験において、光源としてブルーホワイトの二〇ワツトの蛍光ランプ四本、計八〇ワツトを保育器の上にとりつけて照射した旨(甲第一四号証一五九頁本文一九行から二〇行まで、同頁下左欄末行から下右欄下から三行まで及び一六一頁図1)の記載があることが認められる。

また、成立について当事者間に争いのない甲第一三号証によれば、甲第一三号証(大西鑛寿他著「新生児黄疸の光療法について」小児科第一二巻第七号別冊・昭和四六年六月一日発行)には、新生児黄疸の光療法は、現在ではその有効性を疑うものはなく、全世界で広く行われるに至つた旨(甲第一三号証七二九頁左欄一六行から一七行まで)、光療法の光源として、市販の蛍光灯の光に少量含まれる紫外線をカツトした無紫外線管球を使用できるが、この無紫外線管球と従来市販の蛍光灯の管球との光療法の効果には差がない旨(甲第一三号証七三四頁右欄三七行から七三五頁左欄五行まで)の記載があることが認められる。

(四)  前記甲第四号証によれば、オハイオ・メデイカル・プロダクツ社の発行した、同社の販売する開放型新生児保育器及びその付属品の宣伝、販売促進用のパンフレツトである同号証には、次のような記載があることが認められる。

(1) 開放型保育器のテーブル(新生児収容ペツド)を支持する台に、上端にほぼ水平のオーバーヘツド・モジユールを突設した一対の支柱を立て、該オーバーヘツド・モジユールはテーブル面より十分高い位置において平行且つほぼ水平となるように形成された状態の開放型保育器の写真。(甲第四号証の三頁左側の写真、五頁中央の写真)

右オーバーヘツド・モジユールは片側二本ずつの蛍光灯を備え、これらのほぼ水平のオーバーヘツド・モジユール間に、六本の蛍光灯の管球のような物を備えた光線治療灯が水平に、テーブルの真上方位置に配設された状態の写真。(甲第四号証の二頁左右の写真、一〇頁左側の写真)右光線治療灯が、前記オーバーヘツド・モジユール間を、テーブルの真上方位置より後部外方に移動された状態の写真。(甲第四号証の六頁左右の写真、五頁中央の写真)

(2) デユアル・オーバーヘツド・モジユール これにより熱を輻射し、蛍光照明できますから、乳児を非常にみやすく保護的な環境におくことができます。付属品の光線治療灯は乳児の上のモジユール間で、直接に動いて場所を移します。このスペースはまた、用いる携帯型のX線装置のほとんどを収容できます。(甲第四号証六頁左上欄一行から一一行まで)

(3) 二つのオーバーヘツド・モジユールは、レキサン(GE社)の管状おおいで防護された二本の二〇W蛍光灯をそれぞれ備えています。二つのスイツチにより、それぞれ備々に点灯できます。明るさを段階的に変えることができ、さらに、この四本の蛍光灯は、付属の光線治療灯を取り付けた時に、補助する役目もします。(甲第四号証六頁右上欄一行から一〇行まで)

(五)  右(二)認定の事実によれば、甲第五号証には、同号証記載の保育器用架台の保育器上部の保育器の真上方位置から後部外方に移動できる棚に、光線治療ライトを取り付けることが記載され、右(四)認定の事実によれば、甲第四号証には、開放型保育器においてではあるけれども、光線治療器が新生児収容ペツドの真上方位置に、照明用の蛍光灯と同じ高さで配設され、右光線治療器が、オーバーヘツド・モジユール間を、テープルの真上方位置より後部外方に引き込み移動可能となつているものが記載され、更に右(二)、(三)、(四)認定の事実によれば、甲第六号証、甲第一三号証、甲第一四号証には、光線治療器(光線治療ライト)の光源は、市販の二〇W蛍光灯を、収容された新生児に所要の光量照射できるよう四本又は五本つけられていることが記載されており、蛍光灯と光線治療器の光源は共通性があることが示されているから、甲第五号証及び甲第六号証に記載されているものの水平アーム間に配設されている蛍光灯を備え後部外方に移動できる棚に代えて、蛍光灯の管球の明るさや本数を光線治療に必要な光量を得られるようにした光線治療器を備え後部外方に移動できる棚、即ち上部に載置部を備えた光線治療器とすることは、当業者にとつて、それらの各証拠からきわめて容易に想到できるものと認められる。

4  本件明細書には、前記二(本件考案について)3認定のとおり、本件考案の効果として、(一)黄疸等の光線治療に際しては、光線治療器を保育器のフードの上方に停止させて照射を行い、X線撮影を行うときや掃除又はえい児の出し入れのためフードを開けるときは、光線治療器及び該治療器の上面に載置した新生児モニター等を後方に移動させれば、保育器の上方に空間ができるので、光線治療器に邪魔されることなく、作業を行うことができ、(二)新生児モニターを光線治療器の上面に載置したときは、新生児モニターを監視しながら光線治療及びX線撮影等を行うことができる旨の記載がある。

しかし、右(一)の効果は、甲第五号証及び甲第六号証に記載された引き込み可能な棚を有する保育器用架台の作用効果についての前記1(三)認定の甲第五号証及び甲第六号証の記載から、右保育器用架台の水平アーム間に配設されている蛍光灯を備えた棚に代えて、上部に載置部を備えた光線治療器としたものが奏する効果であることがきわめて容易に予測でき、また、右効果のうち、X線撮影の際の便宜の点は、前記3(四)(2)に認定した甲第四号証の記載から、甲第四号証記載のオーバーヘツド・モジユールの間に配設され、オーバーヘツド・モジユール間を、テーブルの真上方位置より後部外方に引き込み可能となつている光線治療器も奏する効果であることは明らかである。

また、右(二)の効果のうち、新生児モニターを監視しながら光線治療及びX線撮影等を行うことができる点は、甲第五号証及び甲第六号証記載の保育器用架台の引き込み可能な棚に新生児モニター(監視装置)が載置されている場合に奏することができる効果であることは、前記1(三)認定の甲第五号証及び甲第六号証の記載から直ちに予測できることであり、新生児モニターを監視しながら光線治療を行うことができる点は、右甲第五号証及び甲第六号証の記載から、右保育器用架台の水平アーム間に配設されている蛍光灯を備えた棚に代えて、上部に載置部を備えた光線治療器としたものが奏する効果であることがきわめて容易に予測できる。

したがつて、本件考案の奏する効果も、甲第四号証ないし甲第六号証の記載から容易に予測できるものであつて、特段の効果ではない。

5  よつて、本件考案は、甲第五号証及び甲第六号証の記載と甲第四号証、甲第一三号証及び甲第一四号証の記載に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができたものと認められ、これに反する請求の原因三(本件審決の理由の要点)5(一)の判断は誤りである。

6(一)  被告は、請求の原因に対する認否及び被告の主張五(認定判断の誤り第4点について)3主張のとおり、蛍光ランプと光線治療器とは、本質的相違があり、この相違点はきわめて些細な設計変更にすぎないものとは認められず、蛍光ランプを光線治療器に代えるという考案がきわめて容易であるとはいえない旨主張する。

しかし、光線治療器は医療器具であり、蛍光ランプは照明器具であるが、甲第五号証及び甲第六号証に記載された保育器用架台の引き込み可能な棚に備えられた蛍光灯は医療器具の一部となつているものであり、この場合の蛍光灯は光線治療器と同じ新生児用保育器及びその付属器具の技術分野に属するものであることは明らかである。

また、光線治療器の光源については、前記3(三)認定のとおり、甲第一三号証に、市販の蛍光灯の光に少量含まれる紫外線をカツトした無紫外線管球を使用できることが記載されているが、甲第一三号証には、この無紫外線管球と従来市販の蛍光灯の管球との光療法の効果には差がない旨も記載されているのであり、前記二2(二)認定のとおり、本件明細書にも、本件考案の実施例に配設されている光線治療器の光源については蛍光灯とあるのみで、特定の性能のものに限定してなく、前記3(二)認定の甲第六号証においても、前記3(三)認定の甲第一四号証においても、光線治療器の光源については蛍光灯とあるのみであり、前記3(四)(3)認定の甲第四号証の記載によれば、照明用の蛍光灯が光線治療器を補助するものとされてかることからすれば、光線治療器の光源は市販の蛍光ランプであつても足りるものと認められ、甲第一三号証に記載の無紫外線管球が使用されることがあるとしても、光線治療器の光源と一般の照明用の蛍光灯との間には、本質的な差異はないものと認められる。

前記甲第一三号証によれば、新生児黄疸の光療法の光化学的定義は、「ビリルビンの吸収スペクトル(blue light: 400~500mμ)を含んだ光を照射することにより生体内の間接ビリルビンに光のエネルギーを吸収せしめ、動起させ、分解を促進し、極性の強い物質にin vivoにおいて変化せしめ胆汁や尿中への排泄を容易ならしめ、黄疸を軽減することを目的とするいわゆる光化学反応を応用した治療法」であることが認められ、これによれば、光線治療器の本質的機能は、ビリルビンの吸収スペクトルを含んだ光を照射することにあるものと認められるから、必要に応じてフアン、ヒユーズ、両切りスイツチ、タイマー等の補助装置を備えているとしても、光源である蛍光灯が光線治療器の主要部分であり、蛍光灯との共通性は明白である。

また、光線治療器においては、蛍光灯の管球の明るさや本数を光線治療に必要な光量を得られるようにする必要があるとはいつても、前記のとおり、市販の二〇W蛍光灯の管球を四本又は五本つけるものもあり、照明用の蛍光灯と比較して顕著な差異とはいえない。

右のような、蛍光灯の管球の本数や補助装置を備える結果、光線治療器の体積や重量は、照明用蛍光灯よりも大きくなる可能性があるが、甲第四号証及び甲第六号証に記載された光線治療器の写真によれば、照明用蛍光灯と比べて格別に大きくないものもあり、照明用蛍光灯を備えた棚と新生児モニター等を支持し得る支柱を、必要に応じて光線治療器と新生児モニター等を支持し得るものに設計変更する程度では対処できない程に重いものとは認められず、体積や重量の点でも、光線治療器と照明用蛍光灯との間に本質的な相違は認められない。

したがつて、光線治療器と照明用蛍光灯との間に本質的な差異があることを理由に、蛍光ランプを光線治療器に代えるという考案がきわめて容易であるとはいえない旨の被告の主張は採用できない。

(二)  被告は、請求の原因に対する認否及び被告の主張五(認定判断の誤り第4点について)4主張のとおり、甲第五号証ないし甲第七号証については、光線治療器を別途付属品として取り付けることができるが、それらにおいては、光線治療器を閉鎖循環式保育器の上部フードに直接乗せるもので、まさに本件考案が克服しようとしていた従来型(本判決別紙本件考案図面第1図参照)に他ならず、光線治療器を引き込み可能で簡単に移動可能とすること及び光線治療器を棚として利用しようとする技術思想は開示されておらず、このようなものから本件考案を考案することは画期的である旨及び甲第五号証の架台にも甲第四号証のスタンダード型装置のいずれにも、光線治療器を棚として利用しようという技術思想は存在しない旨主張する。

しかし、甲第五号証には前記1(四)のとおり、光線治療ランプアクセサリーを「棚」に取り付けることが記載されているのであつて保育器のフードに乗せるものとは解することができない。また、光線治療器を引き込み可能で簡単に移動可能とすることが甲第四号証に記載されていることは前記3(四)、同(五)認定のとおりである。そして、甲第五号証及び甲第六号証に記載されているものの水平アーム間に配設されている蛍光灯を備えた棚に代えて、蛍光灯の管球の明るさや本数を光線治療に必要な光量を得られるようにした光線治療器を備えた棚、即ち上部に載置部を備えた光線治療器とすることは、当業者にとつて、きわめて容易に想到できるものと認められることも前記3(五)に判断したとおりであり、被告の主張は採用できない。

五  以上のとおり、その主張の認定判断の誤り第1点及び第4点を理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

別紙 本件考案図面

<省略>

別紙 甲第五号証図面

<省略>

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